第6回:長井 翔先生(市立札幌藻岩高等学校 教諭)

 

本校は、開校してもうすぐ半世紀を迎えます。「未来に向けた新たな価値を創造・共創する人物」の育成を目指しており、本校の未来の姿を「生徒・教職員が共に挑戦し、未来を創るための魅力ある学びの場」と定め、改革を進めている最中です。

本校の「地域探究」は、地域と学校の連携体制がほぼ0であった2018年度に、当時2学年の総合的な学習の時間の担当教諭2名が地域に足を運び、何度も対話を繰り返し学校と地域の思いを共有しながら、プログラムを作成したことが始まりです。

初めての挑戦で先が見えない中、その都度どう進めていくか知恵を振り絞りながらの実践で、教員や生徒からは不安や不満の声が少なからずありました。しかし、学校の外の世界、実社会でさまざまな体験をすることで、生徒に少しずつ変化が見られました。その後、改善と改良を加え、本校の探究活動として継続することが決定し、2019年度には総合的な学習・探究の時間の企画立案をする「探究委員会」が組織化され、現在にいたっています。

今年度で4年目を迎えるこの「地域探究」は、

MSP【M(Moiwa×Minamiku) S(Smile×Sustainable) P(Project×Platform)】

と名付け、本校のある札幌市南区がこれからも笑顔あふれる街であり続けるために、地域のことを知り、高校生ができることをみんなで考え、 地域の人々と関わり意見交換をしながらその計画を実行し、持続可能な街作りに積極的に取り組んでいくことを目指しています。

ここでポイントになるのは「地域課題解決」ありきではないということです。あくまでも「生徒の興味関心、やってみたいこと」を実践する場が「地域」というフィールドである、という位置付けです。地域のために生徒がいるのではなく、生徒のために地域がある。そんなことを地域の方々にお伝えし、対話を繰り返してきました。

今では地域の多くの方々が生徒に伴走してくださるようになりました。生徒たちには、提案で終わらず「一歩アクションを起こしてみよう!」と声を掛けています。また、基本的にチームを作って探究をしていますが、生徒自身の興味関心をもっとも大切にしているため個人探究も認めており、外部との渉外もほぼすべて生徒たちに任せながら進めています。もちろん、探究の進度は各チームでバラつきはありますが、そこは無理に揃えずに各チームの進捗状況に合わせて適宜アドバイス(ツッコミ)を入れながら進めています。

生徒たちに身に付けてほしい能力は「未来に向けた新たな価値を創造・共創する」力とそのマインドです。この取り組みを通して生徒たちは高校生である自分が社会の一員であり、また社会を変えられるという経験をします。地域の方々との対話の中で自分の発した些細なアイデアや思いがどんどんつながって、社会と関わることにワクワクし、本当に自分がやりたいことに気づき進路選択を変える生徒がこれまで何人もいました。

そんな生徒たちは、卒業後もそれぞれのフィールドでコロナ禍の影響を跳ね返すかのように、やりたいことにどんどんチャレンジしています。もちろん、高校時代に不完全燃焼に終わる生徒もいますが、その経験があるからこそ卒業後には逆に自分からアクションを起こしているケースもたくさんあります。そういった卒業生の姿を誇りに思うと同時に、ともに未来に向けた新たな価値を創造・共創する同志して恥じぬよう、自分自身もさらに精進していこうと刺激をもらっています。

他校の先生から「探究のテーマをどう設定させたらよいか?」と聞かれることがよくあります。この答えは極めて簡単で、「テーマは生徒自身の中にある」です。「探究」とは「恋」のようなもの。Myテーマを見つけた生徒たちは、総探の時間の枠を超え、四六時中そのテーマのことで頭がいっぱい。休み時間や放課後も、話題は「恋バナ」で持ち切りです。さらに、「恋」を成就させるため、自分磨き(テーマに関連することを自分から学び出す)もし始めます。私たち教員の役割は安心して思いっきり「恋」ができるように伴走することです。本校の取り組みから「探究」=「恋」を想像していただけたら幸いです。

次回は、生徒と一緒にご自身も探究に勤しんでいらっしゃる、北海道静内高等学校の内田大資先生にご担当いただきます。お楽しみに。

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部