第10回:横井麻衣子先生(鳥取県・青翔開智中学校・高等学校 学校司書)

本校は2014年に鳥取県鳥取市に開校した私立中高一貫校です。開校当時、鳥取県東部には中高一貫校がなく、独自性の高い中等教育サービスを提供する学校が求められていました。そして紆余曲折を経て本学園(学校法人鶏鳴学園)がこの役割を担うこととなりました。

もともと本学園は塾・予備校の運営を教育事業の主軸にしていました。しかし、本学園の理事長(本校の初代校長)の中 には、自身の経験から、やりたいことをトコトン追求して将来を自分で切り拓いていく人材を育てたいという思いがあったようです。

その思いがベースとなり、ペーパーテストで高得点を取り、偏差値を重視する大学受験に特化した予備校とはまったく違う形の教育のあり方を構想していました。

その後、本学園の理事長が、京都市立堀川高等学校(以下、堀川高校)に「探究科」を創設した荒瀬克己先生と出会い、その出会いがきっかけとなり、本校の理念のひとつに「探究」が据えられることになりました。 当初は堀川高校の先行事例を参照し、オーソドックスな手法でテーマ設定から情報収集、分析、まとめ……といった流れで始めましたが、高校生向けの内容を中学1年生に適用しようとしたためか探究活動の難しさを強く感じさせる結果となってしまい、生徒のモチベーションを維持できませんでした。

生徒の主体性を引き出すには、何よりも「自分たちの力で実現できた」という達成感や楽しい・面白いと思わせることが重要です。好奇心や情熱がなくては「やらされ感」のある探究になってしまいます。

そこで、開校2年目に教職員が中心となって探究の授業改革に乗り出しました。中学1年生は創造性やアイデアの生成、チームワーク形成に重きを置いた内容に大きく舵を切りました。中学2年生は企業の課題を発見し、解決プランを提案する一風変わった職場体験を実施するようになりました(今ではこのようなスタイルも増えているかもしれませんが、当時はほかに例がありませんでした)。

中学3年生はSDGsの視点で課題の領域を広げていきます。現在では、実践的な課題解決の手法である「デザイン思考」のフレームワークや高度テクノロジーの活用を 取り入れた授業へと変化しています。最終的に高校2年生では個人でテーマを設定し課題研究を行いますが、中には中学チームで取り組んだ内容を発展させ、個人のテーマとして引き継ぐ生徒もいます。 上記はいわゆる「総合的な探究の時間」の授業ですが、一方で開校から続けてきたのが各教科で行う図書館の資源を活用した探究的な学びです。

図書館の豊富な資料群を使って情報を集めたり、論理的に考えたりするスキルを育むことは探究をすすめる上で必須の汎用的なスキルとなります。こうしたスキルの育成に開校時から取り組んできましたが、2018年にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けたことを契機に取り組みが加速しました。現在では校務分掌に「探究部」が組織され、司書として参画。教員とともに「総合的な探究の時間」のカリキュラム編成や各教科の授業計画の検討にも参加し、生徒への資料提供や情報 活用のサポートにも当たっています。 本校で育てたい生徒像を全教職員で共有し、探究部が中心となって『青翔開智の「育てたい資質」と「評価項目」』という37の項目を策定したことで教員間の意思疎通もスムーズになりました。

学校全体で教育目標の達成に向かうべく、全教科・全学年で探究学習に取り組んでいます。現在、こうした学びを本校独自の名称で「探究スキルラーニング」と呼んでいます。 学校の形態や地域が異なれば、適した探究の手法・過程も変わります。その学校における探究の意義や「探究するとはどういうことか」を定義し、生徒の状況にも合わせて生徒と学校がともに理想の探究を追求していくことが重要なのではないでしょうか。

これからも形を変えることを恐れず、挑戦し続けたいと考えています。

 



Institution for a Global Society株式会社 教育事業部