第15回:武善紀之先生(日出学園中学校・高等学校 教諭)
本校は、千葉県市川市にある共学の私立中高一貫校です。同敷地内には小学校も併設されており、共用の施設も多く、校舎内で小学生の集団と中高生がすれ違うこともしばしばあります。おそらくそんな環境の生み出す、どこかほのぼのとした空気が本校の特徴です。総合探究科の授業は、中高ともに概ね週に1時間程度設定され、毎年数名の担当者で1年間回しています。
探究の授業で大切にしていることは、「大袈裟なテーマを設定しないこと」「身近な題材にこだわること」です。私が担当する情報科でも、よく調査研究に取り組んでいますが、以前、ある研修会で「SDGsで立派な発表のできる生徒が、『身近な問題の発見・解決』場面では何も意見を出せない」と話題に出たことがありました。実際、少なくない生徒たちが「自分の周りには問題なんて無い」と当たり前のように口にします。
そこで、生徒が「問い」を見つけるための手助けとなるよう、私は授業の最初に「悪ノリ」的な実習をよくやるようにしています。情報の授業の例ですが、「他人を騙す広告・噂を作ってみよう」「ガチャの排出率をコントロールしてみよう」「いたずらソフトを作って、友達を驚かせよう」といった具合です(一部改変して、探究科でも扱っています。詳しくは本校のホームページをご覧ください)。いずれもメディア・リテラシーや情報セキュリティにつながる重要な意味を含んでいますが、探究的な意義としては「そんなこともやっていいんだ」と生徒たちの発想を広げることにあります。「くだらないかもしれないけど、何となく面白そう」から始まり、いつの間にか気になって夜も眠れなくなり、周囲から自分勝手と言われながらも、のめり込み続けてしまう。これが探究の理想像だと個人的には思っています。
とはいえ、お題目を掲げもせず、悪ノリっぽい・くだらないことを、なかなか学校全体でやっていくのは困難ですよね。実は本校でも、「教職員一丸となって○○に向かう」ということが、まだほとんどありません。良くも悪くも互いに無干渉です。総合探究科も、おそらく担当者ごとに異なる思想と方針で授業を回しているのだと思います。本当にこれで良いのか、と時折不安になります。
しかし、それで良いんだとも思います。現在の環境は、同調圧力の極めて薄い、個々の「やりたい」を実現しやすい環境だからです。過去には、公立の中学校から外部進学してきた生徒が、「日出に来て初めて自分を出せた」と笑顔で話してくれたこともありました。好き勝手に動き回る教職員の文化は、生徒にも伝わっているようです。私も採用時は数学科でありながら、今は情報科を主とし、公民科の授業に一番注力しています。昨年は南極観測隊にも参加し、下半期に学校を留守にもしてしまいました。
肩の力を抜いて、各々の教師が興味の赴くままに探究する姿を生徒に見せる。そんな教師を見て生徒も少し羽目を外す。その繰り返しの先では、いつの間にかすべての教師と生徒が、探究の理想像を手に入れているのかもしれません。
次回は、千代田区立九段中等教育学校の須藤祥代先生にご担当いただきます。お楽しみに。
Institution for a Global Society株式会社 教育事業部