第17回:荒 康義先生(福島県立郡山高等学校 教頭)
本校は福島県のほぼ中心に位置する郡山市にあり、2年後には「グローバル探究科(仮)」という、探究を主軸に置いた新しい学科を立ち上げることになっています。この学科では文化や言語の壁を越え、国内外の高校生と協働しながら持続可能な社会づくりに向けた探究を行っていくことを計画しています。
私は、昨年まで、東日本大震災による津波と原子力災害によって大きな被害を受けた福島県双葉郡に2015年に開校した福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校で探究のカリキュラム開発と指導を行ってきました。今回はこの前任校における探究活動の取り組みについてご紹介いたします。
探究といってもさまざまですが、前任校で進めてきたものは、実社会の問題や課題に向き合うソーシャル型の探究でした。その中でも、特に力を入れてきたのが、課題達成型の未来創造型探究です。これは、創造力を働かせ理想の状態を設定し、今ないことやもの、そして価値観を生み出していくための探究です。
この未来創造型探究の利点は、地元企業や行政などではなく、高校生がイニシアティブを取れること。実際、「お祭りと避難経路を合わせた防災プロジェクト」をテーマに探究を行った生徒は、震災の影響で無くなっていたお祭りを復活させる偉業を成し遂げました。いわゆる、ロジャー・ハートの「参画のはしご」の一番上の状態の探究でした。
これまで探究を進めていく中でさまざまな改善を重ねてきましたが、その中で特に参考になりそうなものをご紹介いたします。探究活動で重要な要素の一つに「実際にアクションを起こす」があります。生徒の探究を見ていく中で、アクションについても大きく分けて2つあることに気付きました。「調査のためのアクション」と「解決のためのアクション」です。事実をしっかりと見つめるために調査のためのアクションを進め、問題解決のために、また、価値あることを新たに作り出すために、解決のためのアクションする。このようにアクションを分けることによって、生徒たちは探究をより進めやすくなりました。
また、生徒への関わり方も工夫しました。探究は、先生にとっても未知の世界になることが多く、常に生徒のインストラクターでいることは難しく、生徒の探究を止めてしまう障害になる可能性もありました。そこで、あるときはファシリテーターとして探究を活性化させ、またあるときは、ジェネレーターとして生徒とともに楽しみながら探究をする。そして、生徒が自分の探究を自信を持って進められるよう、メンターとして見守る役割を果たせるよう、探究の段階に合わせて役割を変化させることで、生徒の探究を加速させることができました。
現任校の新しい探究科では、今回ご紹介した未来創造型探究をさらに推し進め、異なる国のさまざまな生徒たちと問いを立て、議論し、問題解決や価値創造をより多様な視点から探究を行うことを目指しています。このような探究を進めることによって多様性を認める寛容さを育成しながらも、多様な他者と協働で最適解を探り合いながら責任を持った意思決定を行う経験もできるはず。それが世界をリードする人材の育成につながることを期待しながら、引き続き準備を進めてまいります。
次回は、福島県立福島西高等学校 佐藤伸郎先生にご担当いただきます。お楽しみに。
Institution for a Global Society株式会社 教育事業部