第20回:齋藤亮次先生(公文国際学園中等部・高等部 教諭、ブランド分析室)

 

本校は公文式の創始者、公文公が1993年に開校した「公文式」「寮」「グローバル」を3つの特徴とする私立の中高一貫校です。本校には開校当初から校則はなく、あるのは生徒憲章だけ。「自ら考え、判断し、行動すること」「異質の他者を認めること」など30年間で醸成された学校文化は細部にまで浸透しており、卒業生は国際機関から研究機関、スタートアップやアートの世界など多方面で活躍しています。

 

公文式は「ちょうどの学習」を適える個別最適学習の先駆的存在です。本校では、学習指導要領で総合的な探究の時間が必修化する約10年前から、生徒の可能性を最大限伸ばす機会として個別的な探究学習に取り組んできました。他方、長く続けているからこそ課題も見えてきました。たとえば、高校1年生で実施している個人探究「プロジェクトスタディーズ」では、限られた期間内での論文制作が目的化してしまい、探究学習でもっとも大切な生徒の学習動機が損なわれてしまった側面がありました。

 

そこで、思い切ってアウトプットを自由化し、教員チームで対話を重ねた末にミニマム・ゴールを「好奇心にとことんコミットする」に設定。探究と聞くと、全国規模のキラキラしたコンテストの成果が思い浮かぶかもしれません。しかし、まずは他者からの評価ではなく、”Why youを大切にしながら、好奇心をどれだけもって熱中できたかを最重要指標に据えて、学びを設計しました。ゼミ形式で生徒と担当教員との対話機会を増やし、生徒がフィールドワークに出かけるための障壁を減らし、戦略デザイナー・佐宗邦威氏を招いて「ビジョンのアトリエ」ワークショップを開催するなどの取り組みを行いました。その結果、ほとんどの生徒がミニマム・ゴールをクリアし、それだけでなく、結果としてコンテストへの応募者や受賞者は増加し、実証実験に基づく料理作りや建築デザイン、多様性を意識したファッション、UFOを呼ぶ……など、想像を超えてくるような多様な探究の成果が増えることとなりました。

 

他方、探究にもスキルの「守破離」があります。評価はあくまでもプロセスであることを重視し、ルーブリックを「学びのコンパス」と位置付けました。特に外部のコンピテンシー評価ツール「Ai GROW」(IGS株式会社)を用いた形成的評価によって、生徒同士が探究をメタ的に捉えることができ、自己調整能力の向上につながったと実感しています。また、株式会社トモノカイと協働して探究学習の在り方を抜本的に見直し、同社の強みである大学生メンターによるチャット・フォローやオンライン・メンタリングを導入し、探究に伴走してくれる心強い仲間たちも招き入れました。

 

探究学習の成否は、大人も生徒もどれだけワクワクしながら共創できるかに尽きます。ChatGPTのリリースにより、論理的な文章をただ組み立てるだけであれば瞬時に最適化される未来がやってきたのです。探究においては、自分ならではの経験やストーリーに裏打ちされた「問い」を立てていくことが、オリジナリティを生み出すことにつながります。そして、これを実現するためには生徒に寄り添ってワクワクやモヤモヤを言語化する伴走者の存在が不可欠です。生徒が心からコミットできるテーマに取り組めるよう、教員も一旦、評価を忘れて生徒と一緒におもしろがって生成する。つまり、教員には従来の指導者や評価者よりも、ジェネレーターとしてのマインドセットが試されているのです。生徒たちの探究の芽は、いつ花開くか誰にも分からないのですから。

 

※生徒の興味・関心を出発点とし、各自が設定したテーマに基づいて徹底的に研究するゼミ形式による個人プロジェクト

 

次回の「探究への道」をご担当いただくのは、東明館中学校・高等学校 山元先生です。お楽しみに。

 

 

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部