第22回:金 崇裕先生(追手門学院中学校高等学校 学習推進部 部長)

 

本校は、「独立自彊・社会有為」の学院理念の下、本質的な問いに対する内省を通して、他者に共感し他者と協働することで、あらゆる自分に気付き、自らの価値観で正しい判断ができる生徒の育成を目標としています。

 

(1)探究活動などを通して育みたい能力と生徒の姿
本校では、2014年度までいわゆる詰め込み型教育を行ってきました。しかし、学校が予備校化しているのではないかという先生方の疑問から、「学校としての役割とは何か」「生徒にとっての真の幸せとは何か」を教職員全員で改めて話し合い、問い直すことにしました。その結果、「自己の価値観を正しく形成し、他者とともに倫理ある文化、社会を形成する、真のリーダーを育成すること」を目標に、 教育や授業、各種行事の再設計を試みることになりました。この目標を達成するために「学びの個別化・協働化・プロジェクト化のゆるやかな融合」を一つの教育手段として授業設計を行っています。

 

(2)(1)の達成に向けて重視しているポイント
本校の授業の計画・設計において重視しているのは、「Impulse(衝動)」「Experience(経験)」「Reflection(振り返り)」の3つをサイクル的に回し続けることです。生徒一人ひとりの中にあるワクワクやモヤモヤなど、生徒自らが学びに対する渇望を創出することから始まり、学びに対する経験や振り返りを行うことで、さらなる 「Impulse(衝動)」をかき立てることが重要であると考えています。そのようなサイクルの繰り返しから生徒は自己肯定感を高め、社会の一員であることを認識し、自分がどうありたいか、自分にとっての幸せとは何かを考え追求することができると思います。

 

(3)探究活動の設計・構築と改善におけるエピソード
本校では2019年度から一つの教科として探究科を発足させ、「総合的な探究の時間」の独自カリキュラムとシラバスを作成してきました。シラバスの作成に当たっては前述の3つのサイクルとともに、「O-DRIVE」(Design・Reflection・Inquiry・Vision・Empathyの頭文字)を大切にしています。 各教科においても学習指導要領が求める探究的な学びの実現に向けて、試行錯誤を繰り返しながら授業実践を進めています。私が担当している物理では、自分たちの身近な疑問や不便さ、解決したい課題などから生徒が自ら問いを設定。これが学びのスタートになります。まずは自分軸から生じる問いに向き合うことで、「Impulse(衝動)」がかき立てられます。その後、立てた問いは他者も共感できるものなのか、解決するべき課題なのかを自ら調査することで、自分軸だったものが他者軸へ切り換わります。この課題に向き合い、解決に向けた方針のプロトタイプの作成・検証を繰り返す経験から、内発的衝動によって生じたさらなる「問い」を生み出すことにもつながります。このサイクルは、生徒が本当の意味で主体的に学び続けるためには欠かせないものであると考えています。

 

(4)全国の先生方へ
本校の探究的な学びを深めるための授業改革は、まだまだ始まったばかりです。一進一退、試行錯誤を繰り返しています。その中で一番大切にしていることが「先生教員同士の対話」です。先生方がそれぞれの教育観をもちより、その多様な価値観の中で一つのものを作り上げる。そのためには教員がチームとなり、授業をワクワクしながら設計していくことが大切であると考えています。一人よりも 二人、二人よりも三人……。生徒も教員も一つのチームとなり試行錯誤を繰り返しながら、その過程を大切にこれからも一歩ずつ歩みを進めていきたいと思います。

 

※「O-DRIVE」について:https://www.otemon-jh.ed.jp/o-drive/

 

次回は、高知県の土佐塾中学・高等学校の野崎浩平先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。

 

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部