第24回:山本 享先生(聖学院中学校・高等学校)

 

1906年に開校した本校は、キリスト教の精神に基づく人間教育、学習指導、体験学習を柱とし、“Only One for Others”を理念に教育活動を行っています。また、2020年度より「StudentからLearnerへ」を共通言語とし、学習者中心の個別最適の学びを実現するため、探究中心の授業設計を全学で模索しています。

 

本校の特長の一つが2013年度からスタートした思考力入試。レゴ®シリアスプレイ®のメソッドを活用したレゴ®ブロックを使ったものづくり思考力入試、デザイン思考を取り入れたデザイン思考力入試をはじめ、 4つの思考力入試を実施しています。2021年度からは探究型学習のノウハウを生かし、「ものづくり」「ことづくり」を通して世界に貢献できる人を育てる「グローバルイノベーションクラス」を高校に新設。試行錯誤しながら探究型学習に取り組んでいます 。

 

本校の探究型学習は主に思考力を育むことを目指し、中学1年生から各教科での探究型・PBL型の授業、中学2年生では毎年ある宿泊型学校行事にもPBL型の学びの要素を導入。PBLや探究といった教育コンテンツに興味や関心のある若い教員も多いです。探究型教育を通して、「自分の夢中になれることを見つけ、熱中できる力」と「協働できるか、協働できなくても他者との違いを認められるマインド」を育みたいと考えています。

 

この2つの実現に向けた取り組みのこだわりの一つに「問いづくり」があります。 2021年度の中学1年生より思考をドライブさせるドライビングクエスチョン(駆動質問)を「学年の問い」として考え、1年間の学びの柱としています。生徒が入学する前の3月に学年教員間でミーティングを何度も重ね、教員の想いと生徒の学びをつなげる問いをひねり出します。探究型学習で一番大切なのは、自分で「問い(学びの軸)」をもつことです。また、同じ物事でも学びの大きさは人それぞれであって、発達段階、置かれている環境、気分、感情は誰ひとりとして同じではありません。これらを踏まえ、学びを最大化するために、そのときそのときの自分の「問い」を持って学習に臨んでもらいたいと思っています。 また、教員の役割は生徒が自ら問いを生み出すためのサポートをすること、学びの方法が遠回りに見えても生徒を信じて任せること、学習者が主役だということを忘れず手と口を出しすぎないこと。たとえ生徒が困って「どうしたらいいと思いますか?」と質問をしてきても、心を鬼にして思っていることを言わないこともときには必要です。さまざまなひと、もの、こと(経験)に出会う探究型学習を通して、生徒の「生きる選択肢」を広げることに教員一同チャレンジしています。

 

こうした探究活動に取り組む中で、見えてくる課題もたくさんあります 。特に問題なのは、「 押し付け(やらされ)探究」です。当初は学習者中心の探究型学習の設計だったコンテンツに「教員の意志」が徐々に強く入り始め、「先生の答え」が見え始めてきます。さらに、ここへ「こうあるべき」という「あるべき論」が出れば、「押し付け探究」の完成です。教員からは主体的に取り組んでいるように見え、先生にとって最高の課題設定、プロセスを実現し、理想の成果を出しますが、そこに生徒の本当の学びは皆無。校内でも評価された素晴らしく見えるプロジェクト活動について、リーダーである生徒から「あれは主体性の強要ですよ」と聞かされ、残念に思ったこともありました。もともとティーチングを受けることが当たり前だった今の世代の教員はティーチングや教員が主役のコーチングに無意識に流れてしまうケースがよくあります。しかし、必要なのはファシリテーションであり、探究型学習の伴走です。

 

教員には良き「壁打ちできる相手」の存在が必要で、常に自分の授業などが学習者中心の設計になっているかどうか、チューニングしてくれる仲間の存在が欠かせません。形だけの探究は、行動変容にはつながっても、価値変容は実現できないことを忘れないようにしたいです。

 

学校には「手放した方がいい仕事」がたくさんあります。探究型学習を推進するために、新しいことを生み出したり、壁打ちチューニングしたりととにかく時間が必要です。先生たち本来の創造力を発揮するために時間という「余白」をつくることが大切。もしかしたら、私たちの取り組みから何かお手伝いできるかもしれません。学外に仲間をつくることで実は簡単に乗り越えられるものもあります。本校は見学自由ですので、いつでもお問い合わせください。

 

次回は、静岡県の日本大学三島高等学校・中学校加藤利光先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部