第26回:深谷 新先生(かえつ有明中・高等学校)

 

今年で創立120周年を迎える本校は、「生徒一人ひとりが持つ個性と才能を生かして、より良い世界を創りだすために主体的に行動できる人間へと成長できる基盤の育成」を教育理念に掲げ、多様性と国際性を受け入れながら生徒と教員がともに対話を通して学び合う学校づくりに日々奮闘しています。

 

学び合う学校づくりの中心にあるのが、本校独自の教科「サイエンス科(中学)」と「プロジェクト科(高校)」です。ここでは、SEL(Social and Emotional Learning=社会的・情動的学習、NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)などのスキルを身に付けさせることで、教科での探究的な学びを支え促進させています。

 

私が担当している中学理科における探究学習に関しては、前任校の公立学校のときから取り組んできました。教室での一斉授業や、教員主導の実験ばかりでは得られない学びが探究学習にはあります。一つは、自分の内なる問いを見つめ直し問いを育てていく中で、より一層自分事として捉える学びになることです。当事者意識が高まることで教科書の中の学びで終わらせることなく、また、教員から促すことなく自分の生活と社会とつながり、学びの楽しさを実感できるようになります。もう一つは、失敗をネガティブに捉えるのではなく、次につながる成功の一歩として捉えられるようになることです。教員主導の実験は成功して当たり前で、結果を確認するという場になることが多いです。その場合、想定した結果が得られないと失敗と認識し、場合によっては失敗を恥ずかしいものとして認識する生徒も見られます。しかし、探究学習の場合は、自分からの問いをスタートに方法も自作することも多いので、失敗が当たり前となり、その失敗から学ぶことが多く、失敗が恥ずかしいものではなく誇れるものとして意識変容につながります。

 

以上の2点を重視しながら理科での探究学習を展開してきましたが、従来の教室での一斉授業や、教員主導の実験を否定しているわけではありません。探究学習と両輪で、単元によってバランスを取るように、授業全体をデザインすることの重要性をここ数年で実感しました。今回は、その授業の一部であり、問いづくりと全体観、そして、探究活動中における教師としてのカンファレンスについて紹介いたします。

 

単元に入る最初の授業で、探究学習の本質的な問いをこちらから提示し、イントロダクション(ローンチ)を行います。そして、各自で問いづくりに入りますが、ここでサイエンス科での取り組みを入れています。それは、探究型読書の一つである「回転寿司読書」です。1テーブル3~4人の机上に本質的な問いに関連する専門書、新書、雑誌、絵本などあらゆる本を5冊程度配置します。生徒は目の前にある本の中から直感で選んだ本を取ります。飽きたり自分に合わなかったりした場合は交換もできるようにして、本に没頭できる時間を取ります。約10分経過したら、目の前の本5冊をまとめて隣のテーブルに移動させます。偶然に出会った本から気になった言葉や問いをメモしながら、この方式を3~4回続けるというのが「回転寿司読書」です。このやり方を行うと問いづくりが苦手だった生徒も比較的容易に問いをつくれるようになります。これを授業内で2回分実施して、その後、同じ問いや気になっている言葉をもつ仲間を見つけて4人程度でグループをつくり、チームの中で改めて問いをつくります。そして、その問いに基づく探究方法を自分たちで検討して探究計画を提出し、私の方で安全面と材料のコスト面をクリアできれば探究スタートとなります。8~15コマの探究活動の時間を確保し、最終的には発表とレポートで評価を行います。また先述した教員主導の授業との両輪で実施していくために「ミニレッスン」と称し、探究活動の4~8回分の授業で15分程度の基本的な講義や構成的に学ぶ時間も設けています。 

 

探究活動におけるカンファレンスですが、「何もしない」が基本のスタンスです。問いづくり中も探究活動中も私からはあえて何も言わないようにしています。放置・放任しているわけではなく生徒たちが自分の中から練り出す問いや探究活動(実験・観察など)を通して、生徒自身が納得する答えを導き出してほしいと心の中で応援し見守っているというのが近いです。そして、1度自分の答えを出してからのカンファレンスの方が問いに対して自分(自分の考え・アイデンティティ)があると、自分がたどってきた道をより深く振り返ることにつながるからです。「自分の問いをもう少し絞っていたら変わっていたのかもしれない」「もう一つ対照実験を入れるだけで根拠として成立していたのか!」など、圧倒的に自分事になる印象があります。ただ、それは全員にそうしているわけではなく、一人ひとりの状態を観て見極めようと努めています。乗り切れると判断したら何も話さないように我慢することもあったり、反対に、全く探究に前向きに取り組めていなかった生徒のベクトルが変わる瞬間を観たら一緒に実験をして遊んだりします。また、探究に前向きに取り組んでいる生徒にも、一つ壁を乗り越えてきたらさらなる専門性への高みに進めるような視座を高める言葉を伝えたりしています。ただ、毎時間、一人ひとりに声をかけよう、見取ろうということができないという前提の下でカンファレンスを行っています。

 

以上のように、私なりの探究学習を日々展開しています。ときには理科という教科の枠組みを越えて探究する生徒もたくさんいて、その生徒と一緒に遊びながら学び、学びながら遊んでいます。もしご興味がございましたらいつでも見学できますので、お気軽にこちらまでご連絡ください。

(深谷先生のご連絡先:a_fukaya@ariake.kaetsu.ac.jp

 

次回は、長野日本大学高等学校の水﨑悠樹先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部