第27回:水﨑悠樹先生(長野日本大学高等学校)

 

日本全国の先生方、こんにちは! 長野日本大学高等学校の水﨑と申します。本校は近年、いわゆる「探究的な学び」に力を入れており、その取り組みのひとつとして、令和4年度に「探究創造学科」を新設しました。

 

探究創造学科では「自分の『好き』な分野で活躍し、社会に価値を生み出す人」を育てたい生徒の姿としています。ここで学んだ生徒が、「好き」を生業とし、社会に何かしらの価値提供をしていくことが、ゆくゆく個人と社会、双方の幸福につながると考えているからです。また、それに必要となる10のキー・コンピテンシーを設定。ルーブリックに落とし込み、すべての授業をそのルーブリックに基づいて行っています。

マスタールーブリック      ▲探究創造学科のマスタールーブリック

基本的な学びの設計は、前述の10のキー・コンピテンシーを伸長させるためにわれわれが提供する「授業」と、すべての生徒が自分の「好き」に基づいて自由に立案・展開していく「プロジェクト」を並行して実施していくこと。それぞれのプロジェクトは、計画から実施まですべて生徒自ら決め、週最大8時間、そのプロジェクトに取り組む時間を設けています。「だいぶ振り切ったカリキュラムだな〜」と思いながら、私も日々教育活動に当たっています。

 

プロジェクトは、以下の3つの学校設定科目に沿って進めていくことになります。

(1)ビジョン・ミーティング(仮説段階)
自分たちの仮説や目標を立てて、今後のプロジェクトの活動計画を立案する

(2)コンソーシアム・ラーニング(検証段階)
仮説の検証や目標に向けたアクション。重ねた後に、一定期間行ったあと、プロジェクトの進捗やそこでの気付きや学びなど、自己の成長を振り返る

(3)プレゼンテーション・ミーティング(発表段階)
自分の学びの成果を発表し、次の仮説や目標設定に向けた新たな視点を獲得する

この3つのサイクルを、グルグルと回し、社会への価値提供へと昇華させていくのが、探究創造学科での学びです。

 

また、プロジェクトをより加速させるための手立てとして、われわれが提供する授業ももちろん重要です。例えば、10のキー・コンピテンシーのうち「情報の編集力、発信力」を「与えられた情報を再編集し、プレゼンテーションを行うことができる」レベルに引き上げたいとします。そのとき授業は、「地元企業のホームページにある情報だけで、その企業の魅力が伝わるようにPRせよ」をテーマに、「No.1プレゼンター」という授業を実施。生徒には、テーマに沿って情報の再編集とプレゼンテーションを実際に取り組ませました。また、今はより高いレベルである「与えられた情報を相手や目的に応じて論理的に再編集し、効果的なプレゼンテーションを行うことができる」にレベルを引き上げたいと考えており、「幼稚園の園児たちに向けて、これまでのプロジェクトの進捗を紙芝居形式でお話しせよ」をテーマに、「MY PROJECT 紙芝居」という授業を予定しています。このようにコンピテンシーを高めるために、ルーブリックに沿って「相手や目的に合わせる」などといったような要素を加え、課題の難易度を上げていくわけです。

 

授業を計画するうえで大切にしていることは、以下のようにゴールから逆算して学びを設計することです。

(1)育てたい生徒の姿は何か?

(2)その姿の実現に必要な資質・能力は何か?

(3)その資質・能力を高めるにはどんな活動が必要か?

教科学習のように、履修しなければならない内容や使わなければならない教科書があるわけではないので、このようなゴールから逆算した授業設計が必要となります。

 

このように授業を「逆向きに」設計することは、他の学校のカリキュラム設計にも転用が可能だと考えられます。まずは「この地域に住み、この学校に通う、この子たちだからこそ」の育てたい姿を思い描き、そのために身に付けてほしい力を洗い出し、段階分けをする。最後に、「その力を身に付けさせるために必要な活動ってなんだろう?」と考えることで、学校オリジナルのカリキュラムが設計されていくように思います。

 

また、プロジェクト学習の推進に当たっては、掛けられる時間や活動の形はどうであれ、「生徒の想い」にしっかりと寄り添ったテーマ設定こそ、学びを深めるためにもっとも重要なのではないでしょうか。われわれは「生徒の『好き』は、究極の内発的動機付けである」という仮説をもっています。「好き」でなくても、学習者中心に考えることが大切であることを伝えたいです。「やりたい」「頑張ってみよう」から始まる「挑戦」無くして、学びは広がったり、深まったりはしないと考えています。

 

人的・物的・時間的なリソースには限りがあり、どこでも同じようなカリキュラムが展開できるわけではないかもしれませんが、本校の取り組みが少しでも先生方の学校の探究の設計や再構築の参考になりましたら幸いです。

 

次回は、海老名市立海老名中学校上高原拓也先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。

 

 

Institution for a Global Society株式会社 教育事業部