第29回:三瓶 航先生(聖光学院高等学校)
本校は福島県の北部、伊達市にある創立60周年を迎えたキリスト教主義の学校です。近年はスポーツが盛んな学校というイメージが定着し、県外からも多くの生徒が入学しています。学習指導要領の改訂に伴い、2022年度より学科再編を実施。「総合的な探究の時間」を主軸とし、“新しい学び”を提供することを目的に新たに立ち上げたのが、私の担当する普通科進学探究コースです。
本コースでは学年ごとに4単位の学校設定科目「探究」を設置。コースの教育目的である「幸せに生きるための学び」の実現に向け、自己決定ができる生徒の育成を目指しています。
1年生では、「他者との関わり方」を重視。さまざまな生き方をしている大人たちが与えたテーマに対し、クラスやグループで話し合う中で自分の生き方について考えていきます。2・3年生では「社会との関わり方」を重視し、個人でテーマを決め、そのテーマに1年間向き合い続けることで、社会における自分の役割について考えさせています。
これには探究の時間を通して、生徒たちがまだ気付いていない「生まれ育った地元の当たり前」にフォーカスを合わせ、「地元の魅力」を再発見し、「地元愛」につなげてほしいという願いも込めています。また、大学進学などで地元を離れることになっても、「地元」という場所がいつでも挑戦できるフィールドになることも期待しています。そのため、たとえ些細な興味や関心であっても、それが芽生えたら即取材、やりたいと思ったら即実行というアクションを特に重視。社会との関わり方やつながり方を学び、体験を経験値に変え、自分の中での変化を実感できる時間になればと考えています。そのためにも教員は生徒が安心・安全に挑戦できる環境を整え、生徒を見守ることだけに尽力していきます。
探究を主軸として学科再編をした本校ですが、キリスト教主義の学校のため、以前は「総合的な学習の時間」は「聖書」という教科に置き換えて実施していました。他校より「総合的な学習の時間」の経験値が少ない状態からのスタートで、週4時間の授業設計には大変苦労しましたが、そんなときは校訓である「アガペー(愛)」に原点回帰。「愛は自分が幸せにならないと分け与えることができない」と考え、これが本コースの教育目的となりました。また、この教育目的を達成するためには、まず、幸せに生きている大人の姿を知ることが肝要なのではないかと考えました。そのうえで、最終的には生徒の未来の選択肢を広げることにも重点を置いてカリキュラムを設計しました。次年度(2024年度)には本コースの1期生が高校3年生になります。それぞれの生徒がどんな未来をデザインして卒業するのかを楽しみにしながら、見守っているところです。
探究において常に心掛けていることは、点と点との最短距離を示すのではなく、点と点との最長距離を学ばせる場にすることです。最短距離を示すのはAIでできる時代。今、そして、これからの学校は、長い人生において余白やまわり道の大切さを考えられる場となる必要があるのではないでしょうか。今の日本の教育では避けては通れない高校3年生の進路と日々向き合いながらも、もっと先の未来へのプロットを1つでも多く打ち、生徒が自らの視野と可能性を広げられる場所となれるよう、私自身も探究し続けていきたいと思います。
普通科進学探究コースページ:https://seikogakuin-hs.note.jp
次回は、神奈川県の横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校の高橋裕樹先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。
Institution for a Global Society株式会社 教育事業部