第30回:高橋裕樹先生(横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校)
本校は神奈川県師範学校男子部附属小学校を母体とする新制中学校として1947年に開校した学校です。時代の流れの中で幾多の変遷を経て、現在は横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校として教育活動に励んでいます。
週に一度の研究日を軸として、教職員一丸となって授業研究に取り組み、秋の研究発表大会においてその成果を発表することで、教育界における研究推進の役割を果たしています。
同じ敷地内にある横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校とともに、「自立に向けてたくましく生きる」という学校教育目標を掲げ、その達成に向けて小中の垣根を越えて研究を進めている点が本校の特色として挙げられます。研究を進めていくにあたり、児童・生徒の9カ年の義務教育課程において「自己実現」と「共生」を育成することが、学校教育目標の達成につながるという共通認識をもち、私たち「チーム鎌倉」の命題に据えました。ゆえに今年度は「自己実現と共生を軸に据えた教育課程の創造」という研究テーマを設定し、10月に研究発表大会を実施しました。
「自己実現」の育成にあたっては、「子どもは生まれながらにして有能な学び手である」という子ども観を前提に指導。児童・生徒が「〇〇したい!」「△△になりたい!」という自らの思いや願いを原動力に、授業や生活の中で培ってきた解決のすべを活用し、目的を実現するために粘り強く取り組む姿を想定しています。これらは児童・生徒が主体となって探究する姿にも重なり、実現したときの喜びや成就感が再び「〇〇したい!」「△△になりたい!」という思いにつながり、探究のサイクルが自発的に生まれることを期待しています。
児童・生徒がそれぞれ実現したい事柄や方法を尊重することは大切ですが、それが公共の精神に反するものであったり、他者の権利を侵害したりするものでは、将来の社会の担い手として望ましい姿ではありません。そこで指導の重点として児童・生徒に学びの中で投げ掛けることが「共生」の意識です。他者との違いを理解し、受け入れ、みんなでよりよい集団や社会の在り方を目指し模索できる児童・生徒の姿も狙いとしてもっています。
これらの「自己実現」と「共生」の二つの軸はまさしく、さまざまな授業や生活の場面で展開するコンピテンシー・ベースの学びの中で育まれるものであり、本校では探究学習をその根幹として位置付けています。
ここからは私が担当している1学年の国語科の学習を例に、その実践についてご紹介します。
文学的文章を扱った「読むこと」の学習においては、生徒たちに「読みを深める」というテーマを一貫して示し、その定義として「書かれているところから書かれていないところを読む」と位置付け、指導に当たりました。文中の言葉を手掛かりに言葉として表されていない登場人物の思い、事柄や事象の裏に隠れたものを読み取り、発表するという学習が主な活動になります。
学習を進めていくにつれ、自ら問いを設定し、仮説を立て、文中の言葉を根拠に妥当性かつ客観性のある解答を築こうとする生徒たちの主体的な姿を目の当たりにしました。
例えば『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)の学習では、客が私に暗い過去を話そうとする際、辺りは闇一面に覆われ、客の心情と小説世界の風景が重なることを確認しました。しかし、生徒たちはそれだけではなく、「なぜランプの上においたかさが緑色なのか」「かさをランプに置いた時の明かりの消え方はどうだったのか」「蝶を光り輝かせたランプの灯を消すことに意味があったのではないか」など、登場してきたランプ一つとっても、ここでは書ききれないほどの探究の種をまき始めました。
そして、「〇〇という自分の読みを他者に認めてもらいたい」という思いを抱き、どのように説明したら聴いている人に自分の考えを理解してもらえるか、どんな根拠を用意し、論理を組み立てれば納得を得られるかなど、相手意識を高くもちながら学習に取り組む生徒の姿が印象的でした。
昨今、「教師のいらない授業」という言葉を多々耳にします。それは「有能な学び手である子どもたちが主体的に課題を見出し、培った力や経験を活用しながら、その意義や本質を探り見究めていく。その過程において多くの学びを獲得していく授業」と解釈しています。もちろん、無責任に子どもたちに放り投げる授業ではなく、指導者の意図や仕掛け、ゴールを見据えた入念な準備や計画があってこそのものです。そこに、私たち教員の真価が問われているのだと思います。AIでは辿り着けない、教師だからこそできることが……。
有能な学び手に存分に力を発揮してもらえるよう、今も試行錯誤しながら授業づくりをする毎日です。もしお時間がございましたらぜひ、本校の研究発表会にもお越しいただき、ご意見やご助言を頂戴できれば幸いです。先生方にお目にかかれる日を楽しみにしております。
横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校 教育研究について:
https://fuzokukamakura.ynu.ac.jp/research
次回は、山形県の九里学園高等学校の松岡大地先生にご担当いただきます。ぜひお楽しみに。
Institution for a Global Society株式会社 教育事業部