第35回:大村寛之先生(和歌山信愛中学校・高等学校)

本学は和歌山市内にあるカトリック・ミッション・スクールで中高一貫の女子校です。「一人ひとりがかけがいのない大切な存在であることを認めるとともに、そこに集うものが互いに信頼し、一致する」という意味が込められた「一つの心 一つの魂」という言葉をモットーに教育活動を展開しています。また、規律や礼節を大切にし、他者を思いやることのできる心優しい生徒の多い、落ち着いた雰囲気をもつ学校だと思います。

本学では探究的な学びに取り組んで10年が経過しましたが、そのきっかけは卒業生が働く企業の方の「先生のところの卒業生はみな素直で、与えられた仕事に対して不満も言わず取り組んでくれますよ」という何気ない一言でした。その方の真意は違ったとは思いますが、その言葉を聞き、卒業生たちは社会の中で都合の良い存在として扱われているのかもしれないという気持ちが私の中に芽生えました。そこで、生徒の主体性や積極性を伸ばす取り組みを行いたいと思うようになり、探究的な学びを学内に導入することを提案しました。

文部科学省事業の指定を経て三菱みらい育成財団からの助成をいただきながら「和歌山発!地域の未来を拓く鍵となるKey Girl育成プログラム」と名付けた探究プログラムを高校全体で取り組んでいます。この探究プログラムでは、育成したい資質・能力として便宜上「主体性」「多様性理解力」など8つを設定していますが、個人的には生き生きとした高校生活をきっかけにして、生徒一人ひとりが「やりがい」や「生きがい」を感じることのできる人生を送ってほしいという思いが根底にあります。

また、このプログラムを運営していく上で重視しているのは「チャレンジを通して得る充実感」です。外部の探究プログラムやコンテストへの応募を推奨し、支援することはもちろん、高校2年生で実施する「グローバル探究」では、生徒たちが自ら設定した課題に対してヒントを与えてくれそうな団体や企業などを見つけ、受け入れていただくことを目指す「自分で創るフィールドワーク」という活動を取り入れています。また、選抜した10名程度という小規模での実施ではありますが、カンボジアをフィールドとし、「自分たちの当たり前は世界の当たり前ではない」ということを体感する海外研修も実施。チャレンジの「成果」を評価するのではなく、チャレンジしたという「事実」を評価する雰囲気を大切にしています。変化を恐れず、創意工夫をもって現状をより良いものにしていこうという基本的な姿勢を身に付け、社会への貢献の視点を忘れずに自らの人生をしなやかかつたくましく切り開いていける人材へと成長することを目指しています。

しかし、少しずつ改良を加えながら実施してきた本プログラムに対して、私の中で近年ある違和感が生じてきました。それは、学校側が設計したプログラムに取り組ませることは、生徒の興味・関心に本当の意味で寄り添っているといえるのかという根源的な問いです。そこで、2022年度より学内にあったもうひとつの課題と掛け合わせ、生徒の興味や関心を出発点とする新たな探究学習を行うコース(学年の1クラスを対象とし、iコースと名付ける)を立ち上げました。中学3年の段階からスタートし、現在1期生は高校2年生となりました。生徒が自由にテーマを決めて探究学習を進めていくというのは、非常に聞こえはよいのですが、はたしてわれわれが各生徒をきちんと指導できるのかという不安がありました。しかし、テーマ設定の段階ではその糸口をつかむための指導は行うものの、全てのテーマに対して指導などできるわけがないと正直に割り切ることで、現在はわれわれ教員も伴走者的な立場で楽しみながらこの新しい探究プログラムを運営しています。

今回、この記事を見てくださった先生方は、おそらく探究的な学びを通して、生徒が生き生きと変化していく姿に触れ、それを後押しし、この学びをさらに推進していきたいという気持ちをもっているのではないかと推測します。しかし、それを進めていくには、プログラムの開発以外にも多くの困難や摩擦が伴うことから、それらに対する救いやヒントを求めていらっしゃるのではないでしょうか。私自身もこれまで何度もそのような場面に遭遇してきました。いまだ探究学習の後進地域である和歌山においては、現在でも疎外感にさいなまれることもあります。しかし、そんなときに自分を支えてくれるのは「外部との交流」だと実感しました。全国の先生方や学外の協力者の方々とのつながりによって勇気づけられ、再び前に進むことができました。最初に連絡をするときは緊張してしまいますが、そんな私の相談に乗ってくださる方々はやはりとても立派で、自らのもてるものを惜しみなく提供してくださいます。ぜひ先生方にもその一歩を踏み出していただきたいですし、もし本学の取り組みが先生方の参考になるのであれば、私自身も喜んでお話しをさせていただきたいです。そして、このような探究的な学びを探究する先生方の動きが探究的な学びに取り組む生徒への説得力にもつながると信じています。


文部科学省地域協働事業グローカル型(本学HP)
https://shin-ai.wakayama.jp/kyodo/

文部科学省地域協働事業グローカル型(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1420961_00006.htm

和歌山発! 地域の未来を拓く鍵となる「Key Girl」育成プログラム(三菱みらい育成財団HP)
https://www.mmfe.or.jp/partners/1643/

23年度活動報告
https://youtu.be/YVHt6rLp9Sc

Institution for a Global Society株式会社