第37回:西山正三先生(宮崎県立宮崎東高等学校 定時制課程夜間部)

本校は今年度50周年を迎える九州初の単位制の高校です。「総合的な探究の時間」は学習指導要領改訂前の6年前から先行実施しており、「定時制でもできる定時制だからできる探究学習」をテーマに、年々課題を一つずつ克服しながら充実を図っているところです。

「総合的な探究の時間」は毎週火曜日の1コマで実施。全職員と全生徒で取り組んでいます。本校の定時制夜間部には、小中学校時代に不登校を経験した生徒が多く入学しており、自己肯定感が低く、自分に自信がもてない生徒は少なくなく、他者とのコミュニケーションや主体的な活動を苦手とする生徒が多い傾向にあります。

しかし、私は決して生徒たちの能力が低いとは思っていません。逆に5教科以外の分野における能力(絵、作詞作曲、小説、料理など)には秀でているため、既存の学校に合わなかった可能性があると捉え、「総合的な探究の時間」を利用しながら自己開発を行い、生きがいを感じるための活動・指導を軸に取り組んでいます。

そのため、1年生のスタートでは「自己探究」という名称で自分の好きなことや興味のあることを見つけるためのワーク(月からの脱出、マインドマップ、マンダラート、哲学対話、5W2Hなど)を徹底的に行い、課題設定まで行います。特に哲学対話の授業ではファシリテーターに東京大学の梶谷真司教授を迎え、生徒の思考力や視点を広げる力を引き出すよう指導いただいています。

※具体的には以下のURLに梶谷教授が本校を題材にして書かれた
「アクティビティではなくスピリットとしての哲学対話~宮崎東高等学校定時制夜間部での実践~」という論文がありますのでご覧ください。
https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/0100486361/?lang=0

2~3年生では「社会探究」という名称で実際の探究活動に入っていき、探究によって得られた成果はまとめてプレゼンテーションなどで発表します。3~4年生では「進路探究」という名称で今まで取り組んだ探究活動によって得られたスキルや経験を生かしながら自分自身の進路につなげていきます。

※探究と進路の関係の詳細については以下のURLの記事をご覧ください。
https://view-next.benesse.jp/view/web-hs/article14677/

毎年、9月に公開授業、11月には成果発表会を開催し、生徒の取り組みや私たちの指導内容を公開することで、他校や外部に情報共有を行いながら意見交換を積極的に行っています。また、探究のプロセスを重視した「過程重視探究発表会」を3月に実施し、文部科学省が推奨している「過程を重視した評価」にも取り組んでおります。

今年度からは、教員を志望する宮崎大学の学生に本校まで出向いてもらい、より個別最適な学びを実現できる新しい仕組みを整えました。実際に教員になる前に生徒の探究活動との関わり方や指導を経験できることは、学生にとっても貴重な機会になります。この宮崎大学の学生との連携は生徒にも良い影響が教育効果として出てきており、「高校生国際シンポジウム」での最優秀賞受賞、「Global Link Singapore 2024」での発表など、自信をもって学習活動に生き生きと向き合う生徒たちの姿を見るようになりました。

また、昨年度1月には、文部科学省中央教育審議会「高等学校教育の在り方ワーキンググループ(第4回)」に生徒とともに登壇させていただく機会にも恵まれました(生徒が登壇することは珍しいことだそうです)。そこで、小中学校時代は不登校であった生徒が、「週1回の『総合的な探究の時間』があるから今、学校に来られている」と話しました。この言葉にも探究の取り組みが生徒の成長だけでなく、学習モチベーションにも良い影響があったことが表われています。また、「総合的な探究の時間」を経ることで学習活動に主体的に取り組み、探究活動を通して思考を深め、視点を広げた経験を自身の進路選択にもつなげることできる生徒が増えてきたことも嬉しい成果の一つです。

この他、台湾の台南応用科技大学との交流や、宮崎県のキャリア教育コーディネーターからの助言、探究学習に精通している一般社団法人Glocal Academy代表の岡本尚也氏、宮崎県のSDGsの第一人者である株式会社シンク・オブ・アザーズ代表取締役の難波裕扶子氏のよる定期的な指導など、さまざまな取り組みを進めています。

※高等学校教育の在り方ワーキンググループ(第4回)議事録は以下URLより
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/091/gijiroku/mext_00003.html

私たちの学校での探究の取り組みは、『教育が変われば、社会が変わる』(KADOKAWA)、『ひとはもともとアクティブ・ラーナー!』(北大路書房)、『シリーズ 学びとビーイング2』(りょうゆう出版)など、さまざまな雑誌や書籍にも取り上げていただいているので、ぜひご覧ください。

※本校の探究学習活動に関する取材記事
https://view-next.benesse.jp/view/web-hs/article28004/

これからも「定時制でもできる定時制だからできる探究学習」を本校の強みとして、全職員、全生徒で探究の取り組みを続けていきたいと考えております。


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